移りゆく窓の外の景色を遠く見つめながら列車の振動に身をまかせる。
いつもならこの時間、執務室の机上で書類に埋もれているだろうが今回は別件で仕事が入ったため、
今こうして目的地へと移動中なのだ。
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「警護……ですか。」
突然、この国の最高権力者に呼び出され何事かと向かったところ、言い渡された任務は身辺警護。
「まぁ、君のような佐官が付くような任務ではない。戸惑って当然なんだがね。 」
「いえ……、そういうわけでは。」
「しかし、今回ばかりは特別に国家錬金術師でもある君にこの仕事をお願いしたいのだよ。」
その大総統の言葉を聞き、
(あぁ、なんだ。大佐の地位にある自分に、というよりかは国家錬金術師である自分への任務というわけか)
と納得する。
「つまり、警護する相手、もしくは狙う側が錬金術師関係というわけですか。」
「そういうことだ。」
にっこり。 そう私の回答に満足した大総統は目を細め微笑んだ。
「それで、この警護の相手はどなたですか?」
「君も面識はあるよ。そう、つい先月会ったばかりだろう。」
「先月……。」
自分は普段は軍に従事してるため、あまり錬金術師とは関わり合うことがない。
そんな中で先月会ったばかりでしかも警護が必要なほど軍にとって有益な錬金術師といえば……。
「ホーエンハイム氏ですか。」
「そう、大当たりだよ。マスタング大佐。」
細められた目が少しばかり開かれ、射抜かれた。
光の錬金術師、ホーエンハイム。
国家錬金術師の頂点に立つ男。
伯爵の位を持ちながらもそのような地位には興味がないらしく、東の果ての田舎町であるリゼンブールに
屋敷と研究所を構える変わり者としても有名だ。
あまり華やかな事柄は好きではないようだが、彼自慢の薔薇園が一年で一番美しい頃にだけ夜会を開く。
その夜会が先週行われ、自分も参加したのは記憶に新しい。
しかし、ホーエンハイム氏には独自の警護兵がいるだろう。それにさらに警護が必要とは、一体……。
「何ものかに狙われてる……のですか。」
「いやいや。そんな大それたことではない。ただあやつの研究がもうそろそろ完成しそうらしくてな。それまで警護をしてもらいたいだけだ。」
「そ、そうなのですか。」
確かにホーエンハイム氏ほどになると研究内容も国家機密級だろう。
その研究が完成となると、どこかから情報が漏れて狙われかねないのも納得できる。
「さらに君には警護とあともうひとつ、ホーエンハイム自身とその研究成果をこの私の元にまで届けて欲しい。」
「私に…ですか。」
「あぁ、ぜひ優秀で忠誠心が厚い君に。」
「………」
心なしか忠誠心に強みをおかれた気がする、が。相変わらずにこにこと穏やかに話す閣下に
こちらも負けじと敬礼をもって忠誠心とやらを私は示した。
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(全く、忠誠心などカケラもなく寧ろ奴の地位を狙っている自分にこの任務を任せるとは…やはりあなどれんな)
私は腕を組み、窓の外ののどかな風景を眺めながら今回の任務のあらましを思い出していた。
上を狙っている自分だからこそ、大総統の実力・考えはよくわかる。 わかっているからこそ、
この任務は自分に適職だろう。
国家機密級の研究、錬金術師なら誰でも喉から手がでるほど欲しいものだ。私だって興味はある。
しかし、だからこそ手にすることは出来ない。手にしたらこの国を敵にするも同然だ。
そんな愚かで無駄なことを私はしない。
(閣下も私のこの負けず嫌いさをよくわかっていらっしゃるな)
ーーーーーー欲しいものは正統な方法で確実に必ず手に入れるのが私だから。
「大佐ー。今回警護するその、ホーエンハイム氏ってのは独り身なんすか。」
パラパラと列車に乗ってから渡された簡単な資料に目を通していたハボックが景色を眺めていた自分に質問をする。
「あぁ、今はな。」
「へ?今は…って。もしかしてバツイチとかっすか?」
その回答を聞き、当たり前に思うであろうことをハボックは問う。
「いや。確かに氏には奥方がいたがもう十数前に亡くなっている。」
「あっ……、そうなんすか……。」
「そうだ。それに氏は愛妻家として有名だったそうだからな。……そういうわけで会話の内容には十分気を付けろよ、ハボック。」
部下が会話でドジを踏み、氏の機嫌を損ねることがないようにとマスタングは注意を施した。
「了解っす……。」
ギロリと上司に睨まれ、あまり頭の回転はよろしくない自分がこれから付く任務で上手く立ち回れるか
不安になったハボックだった。
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