月光が照らす、その薔薇園で
Act.1







漆黒に浮かぶ月、その月が照らすは雪の様に白い白銀の薔薇。月光を浴びてあたかも薔薇自らが

発光しているように見える。そんな薔薇達が咲き誇る幻想的な夜の庭園で彼に出会った。








「邪魔だよ、おっさん。」







…初対面での彼はそれはもうひどかった。















止まないワルツ、くるくると回れ、回れ。

目が眩むほどのシャンデリア、その下で肥えた人間達が回る、回る。

そこはあまりにも光に溢れた世界。 しかし、無駄な光が多すぎて目が回る。

"あら、マスタング大佐。私と一曲踊ってくださらない?”
"マスタング君、どうだね?今度うちの娘と会ってみないか?”

そう人々が声をかけてくる中、私は人ごみに酔ったなどと言い訳して一人暗い世界に逃げ込んだ。







*********




この家が誇る、手の行き届いた白い薔薇達が咲くその広大な庭園は屋敷から少々離れているため、

辺りは静かで薔薇達が風に揺られるくらいの音しかここには生み出されない。

先ほどの眩しすぎる光とは反対に月の柔らかな、慎ましい光に照らされた世界に私は安心する。

肩の力を抜き月の光を浴びながら気持ち良く歩いていると、ガサリ。と草が揺れる音と共に突然、庭の脇道から子供が現れた。


「…………っ。」


思わず私は息を呑む。それは子供の気配を感じなかったことに対する驚きと、目の前に現れた子供の容姿に対してだ。





そう、その子供はこの幻想的な薔薇園に相応しいほど美しかったのだ。





子供は薔薇とおそろいで珍しい白銀の瞳に、月光を紡いだような淡い金色の髪を持っていた。

そしてその月の光を集めたような真ん丸い瞳を大きく開き、こちらを見上げている。 さらに小さな白い手には同じくらい白い薔薇が数輪。

本日は夜会のため、このような小さな子供などは参加をしていないはずだ。 ではこの家の子供…か?

いやしかし、と己の記憶を辿りつつとりあえず目の前の子供に声をかけてみる。


「やぁ、こんばんは。夜の散歩かい?」

「…………」


しかし無言。

あまりに幻想的な場所で美しい子供に出会ったので、この子供が妖精か何かではないかと思えてしまう自分が笑える。

そんな錬金術師にあるまじき考えをしていたところ、


「邪魔だよ、おっさん。」


と、なんとも美しい子供の赤く小さな口から似付かわしくない言葉がでた。



「「………」」


「……はは。またおっさんとはひどいなぁ。君、どこのお子さんだい?名前は? 」


こんな礼儀がなっていない子の親はどこのどいつか。それを知るために暴言?はさらりと流して名前を訪ねてみる。

完璧な笑顔をつくって問いかける私を見て、子供は軽く鼻で笑った。


「よく人の名前を尋ねる前には自分から。って言わねぇ?大人のくせに礼儀なってないんだな、おっさん。」

「……それは、失礼。私はロイ・マスタング。東方司令部に勤めている国家錬金術師だ。」


眉が寄るのをなんとか理性で抑え、よろしく、と握手を求める自分の顔を子供は 訝しげに見つめてきた。


「…国家錬金術師。」

「あぁ、銘は焔。焔の錬金術師だ。」

「……あんた、強いの?」

「さぁ……それはどうかな。強い、強くないなんて一人一人基準が違うからね。 」


子供の脈絡のない質問に不思議に思いつつも、紳士らしく対応する。

よくよく子供を見るとその子供は飾り一つないシンプルなワンピースのようなもの一枚しか着ていない。

暖かい季節とはいえ、夜はそれでは冷えるだろう。 とりあえず子供を室内に…と考えてた矢先に




ぼーーん。




重厚な鐘の音が鳴った。


「げっ!もう時間かよ、親父に怒られるっ!」


鐘の音を聞いた途端に慌てだす子供。 時間やら親父やらの単語が気になったが、私をギロリと子供は睨み付け、


「ったく、あんたとしゃべってたから時間が無くなっちまったじゃねぇかっ!」

「は?!私のせいなのか?そんなの勝手すぎるだろうっ。」

「うるせえ!バーカ!ハーゲ!」

「なっ。君、最初のおっさん発言といい、紳士な私でも怒るぞ!」

「自分を紳士呼ばわりするやつのどこが紳士か!バッカじゃねーの!」

「なんだとー!!」


なんとも幼稚な言い合いをしていたが、 子供は「あんたに付き合ってる暇ねーんだよっ。」と

私を押し退け、走り去って いった。 思わず追いかけようとしたが、月光があるとはいえ夜だ。

暗闇ですぐに子供の後ろ姿は見えなくなってしまった。












そんな彼と私の最悪な出会い。
















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