※エドをホーエンハイムと重ねているトリシャさんのお話。
ちょっと暗い。トリシャさんが原作と違うキャラです。
父、ヴァン・ホーエンハイムが家を出てから、母の心配性は始まった。
お母さんは心配性。
普段は今までと変わりなくいつも優しい母なのだが、ちょっと俺の姿が見えなくなった
だけでスイッチが入ってしまう。
「ダメよ、ダメ。お外は危険だから出てはいけないのよ。」
ぎゅっと、少し苦しいくらいに母の腕と胸に包まれる。そう心配性になった母は、外へ
ウィンリィ達と遊びに行くだけでも許してくれな くなった。 そんな母と俺を少し後ろ
で弟のアルフォンスが心配そうに見つめていることに気付き、
「アル、悪ぃ。先にウィンリィのとこ行っててくれ。俺も後から行くから、な? 」
体に絡まる母の腕から懸命に首を伸ばして弟にそう告げた。
弟はわかったと、小さな声で了承したものの、離れていいのかどうなのか迷うように
その場を離れて行った。
しばらくするとぱたん、と扉が閉まる音が聞こえた。その音を聞き、弟にまで心配を
させてしまう駄目な自分への呆れと、アルがこの場を離れたことへの安心でため息が
でる。
あまり弟には今の状態の母を見せたくないのだ。
「母さん。」
くいっ、と母の服を引っ張ってみる。先ほどから母の腕は緩むどころかますます強く
なって、正直苦しいのだ。しかし、やはりというか母はびくともしない。
まぁ、予想はしていたが。
「ねぇ、母さん。俺は勝手に母さんの前からいなくなったりしないよ。」
とにかく、母を刺激しないように。 安心させるように話す。
「母さ…「うそよ。」」
「うそよ。うそ。そんなのわからないじゃない!可愛い私のエドワードを攫おうとするやつがいるかもしれない!」
急に大声で叫びだす母。見開いた目は視線が定まっていない。
「……そうよ。きっとすぐ外で待ち伏せしているんだわ。私からエドワードを奪う気なんだわ!」
母の想像はどこまでも広がり、不安のせいか体がカタカタと震えだす。
「か、母さん!落ち着いて!ウィンリィ達と遊ぶから俺一人になるわけじゃない 。だから大丈夫だよ…!」
このままではまずい。 俺は必死に母を宥めようとした。
が、母は聞く耳をもたずにすぐさま玄関の鍵を締め、俺の腕を掴んで寝室へと急ぐ。
あぁ、あれではアルが家に入れないじゃないか。と思ったがここで抵抗して母を刺激
するのはよくないと判断しおとなしく連れていかれる。
寝室に入り、さらに中から鍵を締め、再び俺を抱きしめ母はひと安心したようだった。
「あの人が残してくれた、あの人と私の大事な子だもの、誰にも渡さない。誰にも……。」
ぼそぼそと言葉をもらす母に、俺は少しだけ悲しくなる。 母が大切なのは、"親父が
残した子供"である俺とアル。 そして特に父親似である俺がいなくなることを怖れて
いるのだ。 父、ホーエンハイムのようにいなくなるのではないかと。
結局はあの大嫌いな父親に勝てないことがとても悔しい。 母の愛は確かに感じるけど
、それが時々本当に自分自身へのものなのか不安を感じる。 でも俺は母を愛さな
くては、父の変わりに。
「俺はどこにも行かないよ。母さんが許す限り、ずっと側にいるから」
抱き締められるばかりではなく、自分も母を抱き締める。すると母は嬉しそうに目を細め、
まるで小さな女の子のようにふわりと笑った。
「そう、そうよね。エドワードはずぅっと私のものだもの。ずっと一緒よ、ずぅっと…。」
そう言いながら母は疲れたのかうとうとし始めたので慌てて俺は母をベッドまで連れて
行き、眠るまで側にいた。
こうした母を見るたびに思う、 好きな人を失うとこんなにも人を壊れるのかと。
しかし、こうして母に執着されることで安心する自分もよほど壊れてきているのだろう。
誰かに愛されているという安心感を十分に覚えてしまった自分こそ、母を失った時に
正気ではいられなくなるのではないか。