パタン。
扉の閉まる音が聞こえて顔をそちらに向ける。
するとそこにはついさきほど書類にサインをもらいに上司のもとへ向かっ
た部下がどこか青ざめた表情で扉の前にいた。
「…どうしたの、ハボック少尉。なんだか顔色が悪いわ。」
「えっ。そ、そうっすか?」
「そうね、なんだか恐ろしいものでも見たような顔だわ。」
「…………」
目線を下に向けたまま、返事もなく黙ってしまった少尉を不思議に思いつつ、
先程までとりかかっていた手元の仕事にもどろうとした、その時。
「……大将と大佐って付き合ってるんですかね。」
「少尉、彼らはどちらも男性よ。」
「や、まぁそりゃそうなんですけど……。なんか二人って時々怪しくないっすか?」
「怪しい……?」
「仲が良いのはわかるんですけど、なんか度がすぎてるっていうか……」
あぁーっ言葉にするのが難しいっ! っと頭を抱える部下を一瞥したリザは
ため息をつく。
「二人とも別に付き合っているとかじゃないと私は思うわ。」
ただ―…
そう、目を伏し目がちにしながらリザは言葉を続ける。
「付き合うとかいうよりも執着に近いものが互いにあるんじゃないかしら。」
「執、着……。」
「そう、エドワード君にとって大佐は道を示してくれた、再び生きる希望を与えてくれた人。親、というわけではないけど、それくらい自分を支配する人だと無意識に思っているんじゃないかしら。」
親がいなければ小さな子供は生きていけない。そんな、親はある意味子供を支配する
支配者みたいな部分もあるから。
手元の作業は続けつつも、冷静に話すリザの表情にふと影ができる。
しかし逆光のためリザの表情がよく見えず、またあまりに小さな表情の変化のため、
ハボックはそのことに気づくことなく、さらに質問をリザにぶつけた。
「じゃ、じゃあ大佐の大将に対する執着は……?」
「大佐はあなたも知ってるように大きな野望を持たれるほどの人よ。きっと独占欲・支配欲といったものも人よりも強いと思う。特にエドワード君は大佐が自ら見つけ絶望からはい上がらせた子。十分執着する要素はあるわ。」
それにあの人はどこか子供っぽいところがあるから、エドワード君はすでに自分のものだと思っているかもしれない。
そんなリザの考えに
ごくり。
ハボックは思わず喉を鳴らす。それは内容も内容だが、それを理解して平然と話す
目の前の上司に対してだ。
「さすが、中尉。大佐のことならお見通しっす、ね。」
「長い付き合いですもの。」
自分でも嫌になるわ。 そう漏らしたときの中尉の目は笑っていなかった。
********
コツコツ。
長い、人気のない廊下に足音が響く。
「なー、大佐。俺、肉食いたい。」
よく寝たから腹減った。分厚い肉が食いたいっ。
そう主張しながら大人に繋がれた自分の手を見て、そのまま流れて自分より半歩先を
歩く男を見上げる。
「あぁ、では私のお気に入りの店に行こう。そこのステーキが絶品なんだ。」
「ふーん。あっ、ついでに大佐の家行っていい?」
「もちろん。……この間読みたいと君が言っていた文献も手に入っているよ。」
「マジで?!さっすが大佐!」
嬉しさに子供は繋いだ手をぶんぶんと勢いよく振る。
「その文献の対価、というわけでもないが、鋼の。君に注意して欲しいことがある。」
「んー? なんだよ。」
「先程も言ったが、あまりあのような可愛い顔を私以外の他の男に見せてはいけないよ、エドワード。」
「んー、わかった。」
「いい子だ。」
嫌がる様子もなく、そう笑顔で従う子供に満足した男は、子供に微笑みかけて
繋いだ手をさらにきつく握り、電灯の光が眩しい夜の街へと子供を攫った。