コンコン。
「失礼しまーす。」
そういって執務室に入ってきたのは、煙草を加えたハボックだ。
別に部下の態度やらは気にしないロイは 「あぁ。」と軽く返事をするだけで目線は卓上の書類
に向けたままである。
「ここにサイン欲しいんすけど。ってか大佐、今日は定時で上がってデートじゃ なかったんすか?」
始業時、そう宣言していた上司だがちらりと時計を確認すると終業時間を30分過 ぎている。
だが上司であるロイは机に座り、未だに仕事をしていて上がるような感じではなかった。
「素敵なご婦人との食事ならとっくに断りをいれたさ。」
「えっ。そうなんすか?珍しいっすね。」
ハボックが珍しがるのも無理はない。この上司は仕事が残っていようが、ホークアイに殺され
そうになろうが、デートがある日は必ず定時であがるのだ。
「まぁな。仕方ないさ、なんせ鋼のが今日突然帰ってきたんだからな。」
「えっ…、大将帰ってきてるんですか?」
「あぁ、昼過ぎにふらりと帰ってきたぞ。そして今は私のベットの中だ。」
「はっ?!えっ、ちょ…っそれ犯罪っすよ!大佐!」
前々から危ぶんでいたことだが、とうとうこの変態上司は犯罪者に成り下がったと驚き、
くわえていた煙草を落としそうになる。
「……バカかお前は。私の仮眠室のベットの中だぞ。」
「…・・・・・・・わざとっすね、今の。」
まったく、重要なところを抜かすなっての。
驚き損した気分なハボックはギロリと上司を睨む。 しかしその睨まれた本人は別に気にする
様子もなく、ハボックが持ってきた書類にさらさらとサインを していく。
「ほら、サインしたぞ。」
「あっ、どうも。」
そして受けとった書類を確認していると、
「さて、今日の分はもう終わっているし、鋼のを連れて食事にでも行くとするか な。」
部下の前だというのになんとも呑気に大あくびをする上司。 そんな上司を呆れつつ、 ハボック
はご婦人との食事の約束よりも突然来訪したエドワードとの食事を優先するこの男は本当に
女たらしなのだろうかと密かに考えいたところ、 上司はふらりと椅子から上がり仮眠室へと向かう。
そして軍服のポケットから鍵を取出して扉を開けた。 実に自然な動作のため、そのまま流して
しまいそうになるが、これは考えられない動作なのだ。
「ちょっ、まさか大佐、中にエドがいるのに鍵閉めたんすかっ?!」
「あぁ、だって鋼のが逃げたりしたら大変だろう?この子は目を離すとすぐにふ らりとどこかへ消えてしまう。」
驚く俺など気にもせず、いつもの笑みを浮かべてさらりと言う上司 。
ご婦人受けのする笑顔だが、今はなんだかその笑みが恐ろしく見える。
「いなくならないようにって……大将はペットじゃあるまい、し。」
「はは…私にとっては似たようなものだよ。」
「…は?」
「せっかく久しぶりに戻ってき猫は、捕まえておきたくなるだろう?」
「………」
そしてさらに驚くことに大佐がカチャリと鍵を開け、開いた扉の少し奥には目を潤ませ
口をとんがらせた金色の子供が暗闇の中、ポツンと立っているではないか。 ぽかん、と口が
開いたまま閉じないハボックなど目もくれず、子供は目の前に立つ男を見上げる。
「………起きたら、真っ暗で。大佐がいなかった。」
「それはすまなかったね。鋼のに寂しい思いをさせてしまった、私はどうしようもなく酷い男だな。あぁ、ほら。そんな顔をするな。ハボックにそんな可愛い顔を見せてはいけないよ?」
甘ったるい声色で小さな子供の頭を撫でる上司。 まさか大佐が開けてくれるのをエドは内側
から待ってた、のか?
いや、そんなのそこらへんの犬や猫よりたちが悪い。 そう考えた途端、ハボックの背筋が
静かに凍る。そしてそのなんとも居ずらいこの雰囲気に我慢ならず、何事もなかったかのよう
に部屋を退室したのだった。
その後の男とその上司の会話。